上場企業の業種と企業価値評価
上場企業の業種と企業価値評価
企業の価値を評価する方法は、業種によって異なります。なぜなら、それぞれの業種には、独自のビジネスモデル、収益構造、リスク、成長性があるからです。この記事では、上場企業の業種分類と、それぞれの業種に適した企業価値評価方法について詳しく解説します。
上場企業の業種分類
日本の証券市場に上場している企業は、大きく分けて33の業種に分類されます。これは、総務省が定める「日本標準産業分類」に基づいており、各証券取引所などで組織された「証券コード協議会」が、上場企業の財務諸表や事業内容を精査して分類しています。
33業種一覧
- 食料品:食品、飲料、たばこなどを製造・販売する企業
- 繊維製品:繊維、糸、織物、衣料品などを製造・販売する企業
- パルプ・紙:紙、パルプ、紙加工品などを製造・販売する企業
- 化学:化学製品、医薬品、化粧品などを製造・販売する企業
- 医薬品:医薬品、医療機器などを製造・販売する企業
- 石油・石炭製品:石油、石炭、天然ガスなどを精製・販売する企業
- ゴム製品:タイヤ、ゴム製品などを製造・販売する企業
- ガラス・土石製品:ガラス、セメント、セラミックスなどを製造・販売する企業
- 鉄鋼:鉄鋼、鋼材などを製造・販売する企業
- 非鉄金属:アルミニウム、銅、亜鉛などの非鉄金属を製造・販売する企業
- 金属製品:金属加工品、金型などを製造・販売する企業
- 機械:産業機械、建設機械、農業機械などを製造・販売する企業
- 電気機器:家電製品、電子部品、半導体などを製造・販売する企業
- 輸送用機器:自動車、鉄道車両、航空機などを製造・販売する企業
- 精密機器:時計、カメラ、光学機器などを製造・販売する企業
- その他製品:上記以外の製造業に属する企業
- 電気・ガス業:電力、ガスを供給する企業
- 陸運業:鉄道、バス、トラックなどの陸上輸送を行う企業
- 海運業:船舶による海上輸送を行う企業
- 空運業:航空機による航空輸送を行う企業
- 倉庫・運輸関連業:倉庫業、港湾運送業などの運輸関連サービスを行う企業
- 情報・通信業:通信、放送、インターネットなどの情報通信サービスを提供する企業
- 卸売業:商品を小売業者などに販売する企業
- 小売業:商品を消費者に販売する企業
- 銀行業:預金、融資などの銀行業務を行う企業
- 証券、商品先物取引業:証券取引、商品先物取引などの金融サービスを提供する企業
- 保険業:生命保険、損害保険などの保険サービスを提供する企業
- その他金融業:上記以外の金融業に属する企業
- 不動産業:不動産の売買、賃貸、管理などを行う企業
- サービス業:上記以外のサービス業に属する企業 (飲食、宿泊、娯楽など)
これらの業種は、さらに細かく分類することができます。例えば、小売業は、百貨店、スーパーマーケット、コンビニエンスストアなどに分類されます。業種分類を理解することで、企業の事業内容を把握しやすくなるだけでなく、業界全体の動向や企業間の比較分析などが容易になります。
企業価値評価方法
企業の価値を評価する方法は、大きく分けて以下の3つがあります。
- インカムアプローチ:将来の収益力に基づいて評価する方法。DCF法など。
- マーケットアプローチ:類似企業の市場価値を参考に評価する方法。類似会社比準法など。
- コストアプローチ:資産価値に基づいて評価する方法。正味資産法など。
それぞれの評価方法には、長所と短所があります。そのため、業種の特性や評価の目的に合わせて、適切な方法を選択することが重要です。
1. インカムアプローチ
インカムアプローチは、企業が将来にわたって生み出すと予想されるキャッシュフローを現在価値に割り引くことで、企業価値を算出する方法です。代表的な方法として、DCF法(Discounted Cash Flow法)があります。
メリット
- 企業の将来性を反映した評価が可能
- 客観的なデータに基づいた評価が可能
デメリット
- 将来のキャッシュフロー予測が難しい
- 割引率の設定に主観性が含まれる
適している業種
- 安定収益が見込める業種:電気・ガス業、鉄道業など
- 成長性の高い業種:IT、バイオなど
2. マーケットアプローチ
マーケットアプローチは、類似の上場企業の市場価値を参考に、評価対象企業の価値を算出する方法です。代表的な方法として、類似会社比準法があります。
メリット
- 市場の評価を反映した客観的な評価が可能
- 比較的容易に評価額を算出できる
デメリット
- 本当に類似した企業を見つけ出すのが難しい
- 市場全体の過大評価や過小評価の影響を受けやすい
適している業種
- 類似企業が多い業種:小売業、サービス業など
- M&Aが活発な業種:製造業、情報通信業など
3. コストアプローチ
コストアプローチは、企業の資産と負債を時価で評価し、その差額から企業価値を算出する方法です。代表的な方法として、正味資産法があります。
メリット
- 客観的なデータに基づいた評価が可能
- 企業の清算価値を把握できる
デメリット
- 将来の収益性を反映できない
- 無形資産の評価が難しい
適している業種
- 資産価値が高い業種:不動産業、金融業など
- 清算価値を評価する場合:倒産企業など
業種別 適した評価方法
以下は、業種別に適した評価方法の例です。ただし、これはあくまでも一般的な傾向であり、企業の特性や状況によって最適な評価方法は異なります。
業種 | 適した評価方法 | 補足 |
---|---|---|
食料品 | インカムアプローチ、マーケットアプローチ | ブランド力や市場シェアも考慮 |
繊維製品 | マーケットアプローチ | トレンドやブランド力に左右されるため、類似企業との比較が重要 |
化学 | インカムアプローチ | 研究開発費や特許などの無形資産も考慮 |
医薬品 | インカムアプローチ | 新薬開発の成功確率や特許期間などを考慮 |
電気・ガス業 | インカムアプローチ | 規制や料金体系などを考慮 |
情報・通信業 | インカムアプローチ、マーケットアプローチ | 技術革新や競争環境などを考慮 |
小売業 | マーケットアプローチ | 店舗立地やブランド力なども考慮 |
不動産業 | コストアプローチ、インカムアプローチ | 不動産の収益力や市場価値を考慮 |
銀行業 | コストアプローチ | 預貸金や自己資本比率などを考慮 |
証券、商品先物取引業 | マーケットアプローチ | 市場環境や顧客基盤などを考慮 |
保険業 | インカムアプローチ | 保険契約の将来価値やリスクなどを考慮 |
運輸業 | インカムアプローチ、コストアプローチ | 輸送量や保有車両などの資産、 規制なども考慮 |
倉庫業 | コストアプローチ、インカムアプローチ | 倉庫の立地条件や稼働率、保管する商品の種類なども考慮 |
サービス業 | マーケットアプローチ | 顧客満足度やブランド力なども考慮 |
注意点
- 上記はあくまでも一般的な傾向であり、企業の特性や状況によって最適な評価方法は異なります。
- 複数の評価方法を組み合わせて、総合的に判断することが重要です。
- 将来予測や類似企業の選定など、評価方法によっては主観的な要素が含まれるため、注意が必要です。
企業価値評価は、専門的な知識や経験を必要とする複雑なプロセスです。専門家のアドバイスを受けることも検討しましょう。